女性講師と食事 (レストラン世界)BACK  

E I 162便「30分遅」の表示。12時過ぎに搭乗ゲ−トが解放された。順番待ちの30人ほどの乗客が狭い階段を降りていった。そこに、送迎バスが横付けされている。バスは中型機が並ぶ滑走路に向かい、エア−リングス機の横で止まった。小雨の中、乗客達はバスを降りタラップを登った。機はダグラスDC−7型機でヒ−スロ−から来た時と同機種である。僕の座席は中程の窓際だった。前方を「60才位の男女」の団体さんが占めている。出発予定を20分過ぎている。窓の外を見ると、機体近くまで接近した「ベルトコンベヤ−」が横付けされている。移動式の大きな機械で20m程の長いベルトが回っている。そこに荷物運搬車が横付けされている。作業員が小包などをベルトの上に乗せている。彼らは小雨の中にもかかわらず沈着に作業している。荷物が積み終わると彼らと機械が移動して行った。出発が近づいた乗員全員が前に整列した。機長のアナウンスが始まった。窓の外を見ると、飛行機の直前にレインコートを着て両手に手旗を持った誘導員がいた。彼は慣れた手つきで手旗を振り始めた。こんな「手動誘導」は見たことがない。

 飛行機は彼の合図に従い機首の方向を変えた。「役割」が終わると誘導員は戻って行った。飛行機がスタートライン停止すると、シ−トベルト着用のアナウンスと機長の離陸の挨拶があった。皆一応聞いている。機は出発用の滑走路に入ると、一瞬呼吸を整えてからエンジンを全開し始めた。「グオォ−」と凄い音を立て機はスピ−ドを上げた。雨に濡れた芝生が、「びゅんびゅん」飛んでいく。一瞬「ふわ」とすると機は離陸した。「彼女達のi」の空港ビルも、おもちゃのように小さくなり霧のためぼんやりしている。機は回転しながら機首を東に向け、高度を「ぐんぐん」上げた。眼下はもう既に畑の上を飛んでいる。丁度この真下はポートマーノック辺りかもしれない。雨雲のために全てが視界から消えてしまった。 機は厚い雲の中に突入した。窓の外は灰色に変わった。小さい窓ガラスに横なぐりの強い雨の水滴が、「ばしばし」と打ち付けてきた。僕は、その黒い空間をぼんやり見つめていた。するとアンナやヒューストン駅の彼女、A大学講師、母を思い出させてくれたポートマーノックの彼女、みんな微笑みながら現れては消えていった。暗雲を抜けると太陽が光り輝く青空がどこまでも広がった。眼下の黒い雲が真っ白い純白の世界に変わった。アイルランド、私のアイルランドいつまでも緑を育む太陽と青空で、私を迎えてくれるのだろうか。