目の前の灰色の城壁が昨夜の恐ろしい情景を思い出させた。暗闇の中で僕を見すえていたあの陰気で恐ろしい黒い目は、よく見ると城壁の「窓」であった。朝の澄んだ空気が気持ち良い。ダブリンはどこに行っても空気は綺麗だ。下り坂を廃墟の城壁に向かって走った。所々で学生やサラリ−マンと出会う。城の入り口でスピ−ドを緩めた。そして、呼吸を整えながら芝生の広がる「公園」に入った。
中世の城の廃墟
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「雨」の為か芝はしっとりと湿っていて土も柔らかい。歩くと、「キュッ、キュッ」と音をたて靴が沈んでいく。奥の城壁に向かって芝生の丘が広がっている。北側を一本の小川が緩やかな蛇行を描いて東西に流れている。その岸辺の所々に高い木が5〜6本まとまって立っている。東の遥か向こうには大きな工場の屋根が見えている。日の出を終えた白色の太陽が緑の芝生を照らしている。東の林に向かって軽く走る事にした。「昼間」でも黒ネズミ色した廃墟は陰気だ。「よし、向こうの林迄走ろう」と決めた。1分間の軽走後スピ−ドを上げた。5分も走ると次第に汗ばんできた。目前に小川が流れ大きな潅木が茂っていた。大きな工場の高いセメントの塀が延々と東の方に延びている。

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