彼は後部座席に乗るよう指示しながらドア−を開けた。iの書類を座席越しに見せた。「記事欄のコメントですぐ分かります。少し遠いですよ」と彼の方が心配してくれた。「いいですよ」と言うとゆっくり発車した。かなりのスピードで走っている、一台もすれ違う車はない。まるで、暗黒の宇宙を飛んでいるロケットのようだ。しばらくすると街が近いのか街灯が増えてきた。信号のある大きな交差点に来た。光の中にきちんと並んだ「住宅街」が見えている。彼はスピ−ドを落とし停車した。こじんまりしたB&Bで「住宅街」の一軒である。明るく低い門は開いてる。庭を通り玄関前で立ち止まった。ドア−横の出窓の中の花瓶に花が綺麗に生けられている。ライトアップされていて綺麗だ。ガレージの車はトヨタのスタ−レットだ。
「今晩は」とドア−をノックした。中から栗色と白髪の混ざったぽっちゃとしたワンピ−スのおばさんが出てきた。「日本の方ね。嬉しいわ」と顔を見るなり挨拶代わりに歓迎してくれた。彼女は、「お盆」に一杯のオレンジジュ−スと水を乗せて来た。
彼女は、僕との僅かな話のやり取りの中から、僕の事を「少々、このまま話しても良い相手」だと判断したようだ。彼女もコヒ−を用意して僕の横に座った。コヒ−を飲みながら「どうしてこの国に来たの?奥さんは?」と、まるで母が子供に話しかけるように嬉しそうだ。僕は「グレゴリ−や2人の娘の事」などを話した。彼女は「私も若い頃は、イエイッツやグレゴリ−の本をよく読みました。オスカ−・ワイルドも好きだったのよ」と目を輝かせた。アンナもそうだったが、「文学」の話が好きなようだ。これはこの国民の特徴であろうか。
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