  
顔を洗いジョッギングに出る事にした。8時前静かに階段を降りた。外に出ると朝の外気はひんやりして気持ちがいい。かすかな霞が此の辺り一帯を覆っている。住宅街から広い車道に出た、車も人影も何もない。緩やかな下り坂を降りて海岸に面したT字型の三叉路に来た。広い左右に延びる道が海岸に沿って走っている。海岸に出ると霞はなくはっきりと遠くまで見えている。海に降りると広い砂浜が、翼を広げたように左右に延々と続いている。1kmほどの沖を一隻の古い中型の貨物船がゆっくり北上している。穏やかな海で水は透き通っている。100m程前方に「老人」がいる。彼は砂浜の上を「長い棒」を引きづりながら歩いている。僕はジョギングをしながら彼に近づいた。
彼は「掃除用モップ」で砂の上を「掃除」している。塵一つない砂浜を「何のために」と不思議に思った。「モップ」に見えていた物は、近づいて見ると棒の先に直径30cm程の黒い円盤が取り付けられている。 彼はその棒をゆっくりと砂浜の上を移動させている。耳にはレシ−バ−を付け、まるで地雷探知機で地雷を捜しているようだ。
「何をしているんですか」と円盤を見ながら尋ねた。「趣味で金貨を探しているんだよ」とニッコリと僕の顔を見た。「何が見つかるんですか」、「今月は金貨と指輪を得たよ」、「昔この辺りで、金塊を積んだ船が難破したんですか」と尋ねた。「そうじゃないんだ。夏ここは、世界中から多くの人々が海水浴にやって来る。その時に指輪、ネックレス、イヤリングなどを落として行くんだ。
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