TOP「帰り道」道に迷う      

 明るくなった朝の海を背に帰途に着いた。海岸から道路に上がると、一台のダブルデッカーが南から北に向かって行った。数人の乗客が乗っている。通の左側に木造の大きな洋館が芝生に囲まれひっそりと建っている。「豪華な別荘」のようだ。そこからは緩やかな登り坂で、今朝降りてきた道だ。彼女のB&Bは、このすぐ上の通りのはずだと狙いを定めて2ブロック上に歩いてきた。そして、 「ここが彼女の家だ」と確信し左に曲がった。しかし、奥に建っているはずの彼女の家が見あたらない。さらに、「北」に進むとやっと「見覚えのある」道が見えてきた。心の中でほっとしが、彼女のB&Bではなく他人の住宅だった。似たような「住宅」ばかりで頭の中はパニック状態になった。元の道迄戻ろうかと思いもした。どうやら、完全に道を間違ったようだ。

 今日に限ってオ−ナ−の名前も覚えずに出て来てしまった。8時30分はとっくに過ぎてしまい気だけが焦ってきた。「こうなれば、誰かに尋ねる事だ」と決めた。周りの住宅を見ると、門にチャイムやベルはなく家の住人に合図できない。仕方なく、目前の家の門を開けて中に入り玄関のドア−をノックした。まるで、「あの赤っ鼻のタクシー運転手」の行為と同じだ。しかし、家の中から応答はなく、その隣も同じだった。これらの「住宅」は夏だけの「別荘」なのだろうか。困り果てていたら、庭の花に水をやっている若い女性がいた。低い垣根越しに、「この近くのB&Bから散歩に出たんですが、道に迷っています。オ−ナ−の名前も覚えてないんです」と言うと、彼女は「近所の事は知らないんです。申し訳ないです」と言われてしまった。
 
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