
8時半、「始まり」だと思った。その時、司会者は「今晩、はるばる日本から来た方がおられます。ご紹介します」と言った。一瞬「僕以外に日本人がいるのだ」と思った。ところが、彼は僕を指定しながら「渡辺さんです。そこに座られている方です」と言った。一瞬、会場が静まり全員からの拍手がされた。何がなんだかわからない。パニック状態になっていたら、司会者は僕の前に来た。「挨拶をしなければ・・・」と思った。「参加できてうれしいです」と僕、なぜ彼が僕の名前を知っていたか考えてみた。昼にバンジョー弾きの彼に名刺を渡したからだ。4人グループの演奏が始まった。ベースが女性、ギター、バンジョウ、バイオリンの組み合わせである。バンジョウがボーカル、彼女がその横、少し後ろにギター、バイオリンがいる。時々、後ろからバイオリンの男がボーカルの近くに来て、「ギーリリ、ギーリリ・・」と、リズムとりながら「おどけ」ている。2曲目は彼女がボーカルで、バンジョウの男が時々彼女に近づき合わせて歌う。そこに「ギーリリ、ギーリリ・・」とバイオリン弾きが「おどけ」ている。一曲が3分程度、5曲ほど演奏した。2組目はギター2人、バンジョウ、バイオリンの4人グループだった。3組目が始まった。ギターがベースを担っている。メンバーの一人はNewyork YankeesのTシャツ姿だ。
4組目はバンジョウ、ギター2人の男性3人のグループである。このグループだけスーツにネクタイをしている。司会者がリーダに向かって、「あなたのグループは、最近このスタイルが多いですね、気取っているようだね」と言った。「気取っているわけではない。たまたまこのスタイルになっただけ」と演奏に入った。聴衆はビール、タバコを呑みながら楽しんでいる。演奏の終わった2グループ目の4人が、僕の近くに来て挨拶をしてくれた。カーボーイハットのリーダが、「ようこそ、彼から聞いたよ。よろしく」と挨拶してきた。メンバーの一人、Newyork YankeesのTシャツ姿の男性が「テーブルに座ろう」と僕を誘い、ビールを買いに行った。すでに2人座っていて7人になった。「演奏は、どうでしたか」と質問してきた。「バンジョウは知っていたが、バイオリンが面白い」と僕、「うーん、そうですか」と彼が答えた。「これからどうするんですか」と彼に尋ねた。「もちろん、ビールを飲みながら最後までいるよ」と、白い口ひげが笑った。「今晩は、ようこそ」と、演奏の終わった1組目の女性がいるグループが僕たちの席にやって来た。彼女と彼らは、アメリカでの予定について話している。彼女が「私達、アメリカに帰る準備をしなければならないのまた会えればいいのにね」とニッコリ笑った。11時前、3組が終わる頃ぽつぽつ帰る人がいた。やっと、最後のNaileのグループだと思った。「12時過ぎなら、最後まで付き会いたい」と思った。
「爆弾テロ、機動隊あの光景が頭から離れない」、「真夜中、あの道を通らなければならない」、少々心配になってきた。司会者が「ブレイクタイムでゲストのXXXさんを紹介します」と言った。「今晩は」と言いながら、ワンピースの上にエプロン姿の「おばさん」が「ヒョウコリ」と中央に出てきた。吉本新喜劇の「女装のおばさん役の桑原和男」とよく似ている。「彼女」は司会者とやり取りを始めた。聴衆が、その話に「げらげら」と笑った。「卑猥」な話のようだが僕にはわからない。身振り、動作、顔まで「桑原和男」とよく似ている。彼女は「巧みな話術」と「身振り」で聴衆を笑わしている。時には「アニメ、アニメ」と「ギャグ」をはさみながら、聴衆の席にやってきては、「例の話」を織り交ぜながら皆を笑わす。「彼は何者であろうか」と不思議に思った。「時間は過ぎていく、NAILEの1曲は聴かないで帰れない、12時を過ぎるのでは・・・」と考え事をしていた。その時、「そこの日本のお方こちらに来ないか、何か話そう」と、道化役の彼女「彼」が僕の方にやって来た。なんの予測もしていなかったので驚いた。「とんでもないです」と丁重に断った。それでも、「彼女」は僕に「何か一言」投げかけて来た。しかし意味がわからなかった。11時半、やっとNAILEのグループの演奏が始まった。バンジョー、ギター2人の3人グループである。ボーカルのNAILEの声は、ブルーグラスミュージックによく合っている。歌っている表情がいい。
ライブミュージックのすごさに少々驚いた。1曲終わったところで帰ることにした。前列の奥さんに、「最後まで居れなくて残念です。日本に帰れば連絡します。彼によろしく」と僕、「彼に伝えます。お気をつけて」と会釈してくれた。入り口で、リーダーと彼女、司会者など数人が帰る人達に礼を言っている。 「最後まで居れなくて残念です」と言うと、「記念に、私のCDをあげよう」と2枚のCDをくれた。 NAILEの声を跡に会場を出た。石造りの城壁には人の姿はない。明るい街灯が気を和ましてくれる。静まり返った城内に僕の靴音だけが石畳に響く。「ギーリリ」の音が耳から離れない。城外は暗い無人の街か、それともテロと機動隊がまだいるのか、少々心配になってきた。酔いはすっかり冷めて心細さだけである。Bucher Gateを出た。街灯は明るく、目の前のPUBはまだやっている。若者が5人(女2人)店の前で話している。「うんこ座り」しているが「怪しい」感じはしない。Water Loo Placeまで来た。わずかな車と人に出会う。あの物々しい「機動隊、野次馬」はいない。明るい街灯が静寂なビル街を照らしている。「あれは」何だったんだろうと再び目を疑った。目の前のPUBから「ガンガン」音楽が聞こえてくる。横の少々暗いところで、中年の男女が「抱き合って」いる。Waterloo Placeを離れると、街灯も少なく街は静まり返っている。すでに1時過ぎ、B&Bに戻りベッドに座った。人の気配はない。シャワーを浴びベッドに入ると、疲れのためすぐに寝てしまった。
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