彼は「着きましたよクーリーパークです」と言いながら広い駐車場に車を止めた。バラスを敷き詰めただけのもので中央にひっそりと一台駐車している。道路幅5m位の並木道が奥の方に延びている。暗くなり始めた夕方5時前の人気のない公園は寂しい。奥に向うと並木道が終わり目の前が明るくなった。前方に白い石壁の新しい建物がある。高い鉄製のフェンスに囲まれている。入り口の門は閉ざされ内は静まり返っている。彼は鉄の扉に手を当てながら「閉館中だろうか。夏場なら開いているんだがね・・・」と、小声でつぶやきながら中を覗き込んだ。彼は何気なく軽く門を押してみた。すると、扉は「キリキリ、キリキリ」と弱い音を立てて開いた。彼は「入っておいで」とニコッと笑って手招きした。

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グレゴリー記念館で買った絵葉書
8は「AG」でレディ・グレゴリーが自ら彫ったもので、9は「W」でW.B.イエイッツです。古い大木で名前の近くに深い割れ目が走っている。緑色の苔が付着して消えかけている文字もある。 |
門からジャリ道が会館入り口のテラスまで続いている。ログハウスのような建物で大きな木製のドア−が開いたままである。正面に木製のカウンタ−式の受付がある。受付の女性が私達に会釈した。「さあ−行こう、君に見せたい物があるんだ」と言って、少し早足で歩き始めた。道路際の広場に一本の幹の大きな木が立っている。彼はその木の前で立ち止まった。古木でその幹の周囲を立ち入り禁止の簡素なフェンスがしてある。彼は「ほら、その木の幹を見てみなさい。彼はフェンスに左手をかけながら「この木の幹に彫られた文字は、グレゴリ−やイエイッツ、バ−ナ−ド・ショウ達が自らが彫ったサインだよ。中程の右側のAGがグレゴリ−だよ」と説明してくれた。よく見ると消えかかったAとGがかろうじて読みとれた。小さい説明用のボ−ドが設置さられている。消えかけたAGの文字を見ながら「Raising・Of・The・Moon」にグレゴリーのアイルランドへの愛国心を思い出していた。
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