オールド・アイリッシュソング  アコーディオン弾き
 前方から、軽やかでセンチメンタルなリズムが聞こえてきた。歩道で初老の男性が、腰掛けに座ってアコ−デオンを弾いている。その生演奏を背に大きな書店に入った。雑誌の立ち読みの客が多い。アコ−デオンの音楽がまだ耳に残る。そんなライブミュウジックを聞きながらショッピングが出来る街。買いたい本の品定めだけして再び外に出てきた。「彼のいる」歩道に来た。前から中年夫婦が歩いてきた。「彼が弾いている曲はなんですか」と尋ねると、「オ−ルドアイリシュソングだ」と親切に教えてくれた。僕は「椰子の実」などの童謡、それに「蛍の光」も大好きだ。彼のメロデイ−がそれらに重る。通行人達を彼は少しも気にもかけず弾いている。
  
アコーディオン弾きのおじさん


彼らはこの街の住民のようで、緩やかな人の流れに消えていった。道ゆく人々もメロデイ−もゆっくりと流れている。彼は歩道の上で低い小さな椅子に座って弾いている。少し白髪が混じっているが面長で結構ハンサムな男性だ。
 曲が終わったので彼に近寄った。「いつも、ここで弾いているんですか」、「毎日ではないが良く来るよ」と静かに答えた。「一枚写真を撮らせてくれませんか」と言うと、「いいよ」とニッコリ笑ってポーズをしてくれた。彼の横に蓋の開いたトランクが置いてある。遠くから見ると、単にアコ−ディオンのケ−スと思っていた。ところがよく見ると、その中にコインが何枚か無造作に入っている。素晴らしい演奏にと、1ポンド硬貨を取り出した。そして、「うんこ座り」をして彼の目の高さまでしゃがみ込んだ。「とても良い曲ですね」と言いながら、そのトランクの中に静かに硬貨を入れた。そして、「オールド・アイリッシュソングを弾いてくれませんか」とアンコールしてみた。彼は、「有り難う。君は日本人か」と、僕の顔を見ながら質問した。そして、アコーディオンを再び担いだ。僕達の前を通行人が通りすぎて行く、彼は再び弾き始めた。
                 BACK