曲が終わったので彼に近寄った。「いつも、ここで弾いているんですか」、「毎日ではないが良く来るよ」と静かに答えた。「一枚写真を撮らせてくれませんか」と言うと、「いいよ」とニッコリ笑ってポーズをしてくれた。彼の横に蓋の開いたトランクが置いてある。遠くから見ると、単にアコ−ディオンのケ−スと思っていた。ところがよく見ると、その中にコインが何枚か無造作に入っている。素晴らしい演奏にと、1ポンド硬貨を取り出した。そして、「うんこ座り」をして彼の目の高さまでしゃがみ込んだ。「とても良い曲ですね」と言いながら、そのトランクの中に静かに硬貨を入れた。そして、「オールド・アイリッシュソングを弾いてくれませんか」とアンコールしてみた。彼は、「有り難う。君は日本人か」と、僕の顔を見ながら質問した。そして、アコーディオンを再び担いだ。僕達の前を通行人が通りすぎて行く、彼は再び弾き始めた。
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